日本を代表する人気漫画家、永井豪。その彼が、「小説 機甲戦記ドラグナー」(園田秀樹・角川書店)の解説を書いていました。もはやこの本は古本でしか手に入らないと思うので、その文章を載せてみました。


解説
メタルウォーズ・ドラグナー

日本のロボット・アニメの歴史は手塚治虫の『鉄腕アトム』から始まった。フジTVに、手塚先生が率いる虫プロ製作のモノクロアニメが登場する瞬間を、高校生だった僕は、今か、今かと待ち構えていた。それは子供時代からの夢だったのだから……。

月刊マンガ少年誌『少年』(僕がマンガ家にデビューする年に廃刊になった)に載っていた、無敵の可愛いロボットヒーロー・アトムとは、僕が小学校一年生の時からの付き合いだ。「ロボット」という言葉や、その存在の可能性を知ったのもアトムからだった。「未来」ということに夢を持てたのも、この作品のおかげかもしれない。

第二次大戦の影響で、日本中が貧しかった時代に、たくさんのロボットが活躍する豊かな未来は、僕の空想を刺激する格好の材料だった。だから僕が、アトムのTVへの登場を、どんなに心待ちしていたかは分かろうというものだ。そしてアニメ版『鉄腕アトム』は期待にたがわないものだった。

アトムは優れた頭脳と、ヒューマニズムあふれる心を持つ人間以上の人間、ロボットのイメージを超えたロボットであった。それは科学万能の夢が見られた時代の、完全無欠のスーパーマンであり、科学の生んだ天使だった。

アトムのロボット人気を追うようにして、『少年』誌上に登場してきたのが横山光輝作『鉄人28号』だった。後に二度TVアニメ化される。

鉄人はアトムと違い、第二次大戦中に兵器として作られたロボットであり、頭脳も心も持たぬロボットだった。小型の操縦器を持つ者によって操られるこのロボットは、兵器という物の恐ろしさと共に、武器として所有してみたいという気持を感じさせて、マンガにおけるロボット人気を磐石のものとした。続いて『ロボコップ』の元祖、死んだ刑事がロボットとして復活する、平井和正原作の『8マン』が大ヒット。

こうしたロボットマンガのブームが去った後、かなりの時がたった頃、僕はロボットマンガの復活をねらった。それにはこれまでのロボットと違う要素と、コンセプトが必要だ。そこで、人間が乗り込み、自動車のように運転できるロボットを考案した。それが『マジンガーZ』の誕生だった。

『マジンガーZ』は日本だけでなく、世界中でヒット(スペイン、イタリアでは視聴率80%、現在もメキシコでヒット中)し、『ゲッターロボ』や『グレンダイザー』など、たくさんのロボットシリーズを生む、きっかけとなった。

フランスのアボリアッツで毎年一月に、『ファンタスティック映画祭』が開かれているが、今年シドニー・ルメットや、マイケル・ヨークなど世界の有名監督や、スター達と共に、僕が審査員として招かれたのも、フランスで『グレンダイザー』(フランスでのタイトルは『ゴルドラック』)が大ヒットしたおかげであった。

次に現われたのが、アメリカSFの大家ハインラインの『宇宙の戦士』を下じきにした『機動戦士・ガンダム』であった。

『宇宙の戦士』は、宇宙での戦闘用のバトルスーツ(ロボットにちかい機能を持つ)を着込んだ兵士の訓練や、実戦を描いたSF小説だ。SF作家の高千穂遥が、この小説をサンライズに紹介してから企画されたガンダムだが、結局はバトルスーツが大型になり、マジンガーと同じ乗り込み型のロボットになった。ただ新鮮だったのは、ロボットをヒーローとしてではなく「兵器」として扱ったことだろう。

この『機甲戦記ドラグナー』は、そのガンダムのコンセプトを受け継いだ同じサンライズアニメの小説化だ。とは言っても園田氏は、元のアニメにさほどこだわらず、自由に小説化している。それによって小説独自のテーマが強く打ち出され、読みごたえのある傑作となった。

もちろんロボット(ここではメタルアーマーという名称)同士のスピード感あふれるアクションもスリリングに、しかも剣豪小説の決闘シーンのように格好よく描かれているのだが、より以上に、戦争に巻き込まれ参加していく人々のそれぞれの“思い”が、主人公の恋愛と共によく描かれている。

しかしそれらの思いも、熱い恋も、友情も、やがて非情な戦闘の中に、冷たい宇宙の塵となり消えていく。そしてこの戦争を、ゲームのごとくあやつる新世代が現われた時、物語は終りをつげる。

これは僕の『真夜中の戦士』という作品と同じテーマだ。人々を“死”と“悲しみ”に追いやる「戦争」の裏には、いつもそれをあやつる人間がいる。そうした人間は、戦争に駆り立てられる一兵士の“心”や、生命の尊さが解らないバカ者だ。

そのような人間の正体を知った時、僕もマイヨ・プラートのように、その者の首を、へし折るのだろうか……?

永井 豪


なんだかマジンガーの話が多いような(^^; でも、この小説版ドラグナーについては大体こんな感じです。ラストシーンは激しくはないものの、壮絶です。(読まないと分かりにくい表現ですが)是非ともゲットして読んでみて欲しいですね(^^)

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